←
「衝動を文字にした物語、それだけ」
ある日、晴れた日、僕は急に何もかもが嫌になった。
イヤフォンから流れる音楽も、着ている服も、携帯で腰を低くしゃべっている汗臭そうなサラリーマンも、このコンクリートの道も、可愛く咲いた花も。
ティッシュを配ってる綺麗なお姉さんだって、横を通り過ぎる自転車、草の緑、僕が息をしていることも。
僕の大好きな青い空さえも。
世界が全て汚く見えた。
何もかもが汚く見えた。
僕の頭の中に音にならない風のようなものがぐるぐると回った。それはまるで僕の脳をかき混ぜるかのように。
目に映るもの全てが歪んで見えた。
僕が歪んでいるのか、世界が歪んでいるのか。
逆に空は白く変わった、雲が見えなくなった。飛んでいる鳥がやけに黒く見えて、汚いとさえ思った。
頭をゴツゴツと叩いてみる。
それでも風はぐるぐると回る。
僕の頭がおかしくなったのか、それとも世界が変わったのか。
空が近くなった。
あと1cmで届きそうなくらい。手をのばすとちょっと冷たい空気が流れていた。
僕の横を通り過ぎる人がじろじろと僕を見ている。ちょっと遠くにいる人もなめるように僕を見ていた。
「ぼくのどこがおかしいのですか。」
世界が変わったのか、いや、僕が汚くなったのか。
僕が汚くなったのか。
何がなんだかわからなくなった。風はいっそう早く脳をかき混ぜる。
頭を抱え込んで、地面へうずくまった。
「ぼくのどこがおかしいのですか。」
声に出して叫んだ、いや、僕の脳が叫んでいた。
「ぼくのどこがおかしいのですか。」
うずくまって見えたのは、真っ黒の世界だった。僕はどこにいるのだろう。
真っ黒の世界をかき消そうと息を思いっきり吸い込んだ。
当然白くなることはなく、まだ真っ黒なまま。それでも僕は吸い込んだ。
自分が汚くなることよりも、見えてるそのものが汚くなるほうが怖かった。
(まだ、ぼくは自分がわかるほどの人間じゃないから。)
うずくまったまま、僕は立てなくなった。
誰も起こしてはくれなかった。
孤独。
空気はどんどんあつく、汚くなった。
逃げ出したくて、逃げ出したくて、叫んだ。
叫んだ。
僕はどこにいるのですか。なにをしているのですか。なにをみているのですか。
「ぼくのどこがおかしいのですか。」
つぶやいた瞬間、僕は目の前の空気をぎゅっと手に握り、走った。
走った、走った、走った。
足がからまってこけて、黒い血が流れても。
わけのわからぬまま、走った、走った、走った。
頭に流れているのは、吸った黒い空気とわけのわからない風だけ。
ある日、晴れた日。
僕は気付くと青い空に手をのばしていた。
嗚呼、落ち着くのはあなたのその青さだけだ。
両手を広げ、高くつきあげ、笑って
そして、
堕ちた。
無料ホームページ・掲示板