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「空気から人間になった日」
屋上に立った。
こんな狭い空に感動してたまるか、と思っていた昨日の夜。
それからまだ数時間しか経っていないのに、今、あたしの目の前には広い世界が広がっていた。
まるで地球の頂点に立ったみたいだった。
あたしの知らない世界が見える。あたしの見えなかった世界が見える。
心臓に手をあてて、そう思った。
「あたしの心臓も喜んでるわ。」
そう、あたしはこうゆう世界をのぞんていたんだ。
あたしのたった二つしかない目で見ていた世界は、目の悪い人がコンタクトをはずしたときくらい霞んでて、色がかったものなんてほんの少ししかなかった。
それが今は。
空が青い、人が色鮮やか、知らなかった色がここにはある。
高さなんて関係なかった。屋上の柵を超えてぎりぎりのところに立った。
誰かの笑い声、車の排気ガス、携帯の着信音。
そうそう、あたしがのぞんでいた世界は確かこんなものだった。
今まで塞いできた耳が、静かにそっとこの世界を認めだした。
ほら、そこに赤い服を着た女の人がいるよ、お洒落だなぁ。
あ、あそこには路上ライブしてる男の人がいるよ、素敵だなぁ。
あ、そこそこ、一列に整列して手をあげながら横断歩道を渡ってる小学生がいるよ、かわいいなぁ。
なんだ、なんかおもしろいなぁ。
あたしはふわふわした気持ちになった。ワンピースをひらひらさせて。
「喜びのダンス。」
とか言ってわけのわからない踊りを踊った。
「たららん、たららん、たらららん。」
心の中の何かが満たされて、あたしは体の奥底から、いや、命の奥底から喜びを感じられたんだ。
あたしはこの日を
「空気から人間になった日」
と名づけることにした。
ねぇ、見える?
あたしは此処にいるんだよ。
一緒に踊りませんか。
たららん、たららん、たらららん。
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