「光」














光があるところには影がある。

見慣れた赤い椅子に座り、窓から入り込んだ光を見て思う。

電車に揺られ、時にビルに遮られ、途切れる光に見とれる。

ヘッドフォンを装備して、心臓まで染み込む音に浸りながら

真正面に座る、サラリーマンを見つめる。

流れる景色を背景に、その男はゆらりゆらりと頭を電車の揺れに任せていた。

彼の背中にも、光が照らされていた。

けれど、そこには影もある。

見える景色と、必然的に見えなくしている景色が交互に脳みそをゆらす。

それを紛らわせるために、耳に届く音にしつこく耳を澄ます。

見慣れている流れる景色。

ビルは当たり前のように聳え立っているし、空は当たり前のように雲とともにそこに、在る。

そして、あたしはいつものように、電車に身を任せる。

前の男と同じリズムで揺れる。

まるで一緒にダンスを踊っているようで、可笑しく思える。

頭に流れる音しか、今、この世界であたしの鼓膜を振動させるものはない。

それにあたしはとてつもない快感を覚える。

雑音は一切、無い。

あたしは、とてつもない快感を覚える。


地上につながる階段を、ふくらはぎを気にしながら登る。

ふわり、ひらり。

スカートが揺れる。

痛いほどの日光が、皮膚を刺激する。

体中に充満する音がわたしにそっと囁きかける。



青く、青く、青く、ひたすらに青い空を仰ぐ。

確かに地球と繋がっている足元に神経を尖らせながら、歩く。

日陰の部分を探しながら、歩く。

颯爽とすれ違う人々に虚しさを感じながら、日陰を求め。


嗚呼、いずれ、どこかへ行ってしまうなら。

駆け巡る、駆け巡る。

溢れかえった光と影が、目の前を駆け巡る。


嗚呼、どうせ、どこかへ行ってしまうなら。

流れ出る、流れ出る。

湧き出る感情が、目の前に流れ出る。


どこかへたどり着けるなら。

どこへでもたどり着けるのなら。

ふわり、ひらり。

白いワンピースを風にまかせ、光を求め、行く。

白いワンピースは日光を反射し、きらりと輝いている。


影があるところには、光がある。

光が、ある。

光も、ある。




光へ。































 
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